ちらかし読みむし

心理療法、社会学、福祉などの領域の読書録、本の紹介など、その他書きたいことを書いています。

ソーシャルワーカーとは? ソーシャルワークとは? こどもに伝えられるような言葉で説明を試みる

はじめに

わたしは、精神保健福祉の現場に従事しているソーシャルワーカーです。
みなさん、「ソーシャルワーク」や「ソーシャルワーカー」という言葉をご存知でしょうか。
この記事では、「ソーシャルワーカーとは、どのような職種なのか」という説明を、私なりの言葉で、試みました。
小学生くらいの子どもに、「ソーシャルワーカーってなに??」と聞かれたとき、「ソーシャルワーカーっていうのはね…」と、不正確ではあっても、おおまかなイメージを伝えられるようなわかりやすさを目指します。

説明できないマイナーな職業


さて、「ソーシャルワーカー」という職業の知名度は、どれほどのものでしょうか。
ソーシャルワーカーという職種は、19世紀末、20世紀初頭に現れた、まだまだとても若い職業です。

たとえば、子どもから問われたとしましょう。
「お医者さん(・警察官さん・消防士さん)って、何??」
多くの大人は、答えることができるでしょう。
「お医者さんっていうのはね、病気を治してくれる人だよ」
「警察官っていうのはね、悪い人を捕まえる人だよ」
「消防士っていうのはね、火事になったら火を消して助けてくれる人だよ」

もちろん、これらの説明は正確なものではないでしょう。でも、その職業について、おおまかなイメージを伝えるには、それなりに用を果たしています。そして、多くの大人は、こどもに、これらのイメージを説明でき、きかれて困ってしまうことはないでしょう。これに対して、「ソーシャルワーカーって何?」と問われて答えられる一般の人は、上記のような職業に比べると、かなり少ないのではないでしょうか。

 

それどころか、ソーシャルワーカーとして現場で働いている人でさえ、「ソーシャルワークってなんだ…」とか、「医師や、作業療法士、弁護士などと比べて、俺たちの"専門性"っていったい何なんだ…」と思い悩んでしまうという話は、あまり珍しくありません。ソーシャルワーカーとして仕事をしている人でさえ、自分のアイデンティティに悩むことがある。

 

「ソーシャル・ワーカー」という言葉の元の意味に立ち返っても、意味不明です。

  • Social(:社会の)Worker(:働く人)。

日本では、ソーシャルワーカーの国家資格として、「社会福祉士」「精神保健福祉士」というものがありますが、こちらも、名前だけ見ても、内容が今一つピンと来ないのではないでしょうか。 

 

ソーシャルワーカーって何??」

もしも子どもに聞かれたら、わたしは現段階ではこう答えることにしたいと思います。

ソーシャルワーカーっていうのはね、生活に困っている人の手助けをする人だよ」。

 

「もしも父さんの乗っている飛行機が墜落したら…」

でも、「生活に困っている人を手助けする」とはどういうことなのでしょうか。

「悪い人を捕まえる」とか「火事を消して人を救出する」などと比べると、今一つ具体性に乏しい。

 

皆さんは、経験があるかわからないですが、わたしは、こどものころよくこんな体験をしていたことを思い出します。

それはたいてい、父親が出張で飛行機に乗って数日家を空けるような夜でした。真っ暗な夜で、大雨なんかもざぁざぁ降っていて。母と妹と薄暗い部屋に布団の上で眠られず、問うていたものです。

 

「かあさん、もし飛行機が墜落して父さんが帰ってこなかったらどうしよう??」

「もしも、父さんが死んでしまったら…」。

 

それは当時の私にとってみれば、世界が崩壊するに等しい大ごとでした。

それは愛着の対象である父を喪失するという心理的な意味だけにとどまりません。

当時すんでいた家は、社宅のようなものでしたから、父が死んでしまえば、この家を出ていかなければならないことは明白でした。いまはこうしてぬくぬくと布団にくるまっていられるけれども、飛行機が墜落し、父が死んでしまえば、そんなことは今後できなくなるのではないか。母は専業主婦でしたから、父が死んでしまえば収入が途絶えることも、知っていました。お母さんは働けるのだろうか。引越ししなければならないのでないだろうか。転校もするだろうか。友達とも別れなければならないだろうか。新しい学校に怖い先生がいるだろうか…。

このように客観的に見ても、父が死んでしまうということは、(今の家で一家5人でくらし、友達のあいつやこいつと、毎朝一緒に学校に行って、A先生の授業を受け、…という)「現在の生活」そのものが崩れ去ることを意味していました。

 

今後どこに住み、お金はいったいどうするのか。

「生活に困る」とは、たとえば、そういうことです。ソーシャルワーカーは、さまざまな理由で「生活に困っている人たち」を援助する人です。

 

「生活に困る」というのは

このように、こどもの私にとって、「お父さんの飛行機が墜落し、お父さんが死んでしまう」ことは、生活上の危機でした。もしそうなったら、おそらく、母にとっても危機であったでしょう(実際はまだ両親ともにぴんぴんしています)。

 

「親を失うこと」「配偶者が亡くなること」は「生活に困る」につながる要因の一例ですが、「仕事」というものも、収入の源ですから「生活」の要となる非常に大きな要因の一つです。

したがって、「仕事がない」「仕事ができない」ということ事情に陥ると、生活に大きな困難が見込まれます。仕事がない/できない(仕事があっても、待遇が良くない)状況にあると、十分な収入を得られないわけですから、生活が厳しくなります。

 

そのような事情にある人は、例えばこんな人が考えられるかもしれません。

  • 病気がある人。けががある人。障害がある人。
  • 年齢が高すぎる人。こどもなので働く年齢ではない人。
  • 働きたいけれど、子どもの世話や、高齢の家族の介護などといった事情がある。配偶者や親せきなど手助けしてくれる人がいないので、働けない人。
  • 働きたいけれど、住んでいる場所が不景気で仕事がない人。

などなど。一般的にはこういった方々は、おそらく「生活に困る」という事態が起きやすいと考えられます。ソーシャルワーカーは、たとえばこのような方々に、日々お会いし、何らかの援助を試みる人たちです。

 

とりあえずのまとめ

さいごに、まとめです。

Q.「ソーシャルワーカーって何??」
A.「ソーシャルワーカーっていうのはね、生活に困っている人の手助けをする人だよ」。

また、「父さんの乗っている飛行機が墜落したら…」と想像し、不安がっていた当時の私に、もし会えるなら、こう言えるでしょう。

「お父さん、早く帰ってくると良いね。心配だね。でも、万が一飛行機が墜落しても、力を貸してくれる人がいます。みんなに見放されて、どこにも行き場所がないなんて悲しいことにはならないように。あなたの住めるお家も布団もきちんと整えて、お母さんともこれまでどおり一緒に暮らせるように」。

 

以上、ソーシャルワーカーというマイナーな職業について、なるべくわかりやすく伝えられるよう努めてきました。より詳しく・あるいは専門的に学びたい方には、以下の本や、IFSWの「グローバル定義」などを検索することをおすすめします。

 

後記。続きはこちら↓ ソーシャルワーカーの「ソーシャル」って何なのか。

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