ちらかし読みむし

心理療法、社会学、福祉などの領域の読書録、本の紹介など、その他書きたいことを書いています。

なぜ人が辞めていくか。福祉領域の職場の退職・離職

わたしは「ソーシャルワーカー」と言って、援助職の端くれだが、この業界(福祉界隈)は、辞めていく人がとても多い。実証的な統計的データはきちんと調べてはいないが、現場に身をおいてから、いつの間にかそう思うに至っており、それを自明視している自分に気づく。では、なぜそう思っているのか。なぜ人が定着せず辞めていくのか。
なかなか生々しくてつらいテーマだけれど、そうしたことについて書いてみようと思います。

辞めていく人が多い

わたしの業界って辞めていく人、多いんだな。とは、初めから思っていたわけではなかった。新卒で求人を探し、就職活動をしようとしていた時なんか、まったくそうは思っていなかった。今や私自身あたりまえだと思っているわけだけれど、あらためてなぜ今私はそう言い得てしまうのか。

まずわたしの職場での退職者の数は相当なものだという経験的な事実がある。わたしの職場は20名程度の小規模なのだけれど、5年以上残っている人は、2人か3人か。たかだか20名規模の組織で、毎年、2人、3人場合によってはそれ以上の人数が辞めていく。「でもそれはあなたの職場が特殊なのでは? 福祉業界一般がすぐ人がやめるというわけではないのでは?」という人もあるかもしれない。そうなのかもしれない。同じ業界でもわたしの勤め先は標準異常なのかもしれない。でも、たぶんそれはうちだけではなく他の所もそれなりに人の入れ替わりはあるのでは、と思う気持ちもある。


その証拠にindeed(求人検索のサイト)で検索してみても(社会福祉士精神保健福祉士)年がら年中、この業界の求人には事欠く様子はない。しかも、見たことのある名前の法人が、何度も何度も求人を出しているのは、ひとつやふたつではない。それにふだん仕事柄お付き合いのある外部の関係機関の担当者も、そういえばいつの間にやらいなくなっているという事態もまれでない。

だから、人の入れ替わりが相当激しいのは、わたしの勤め先に限った話ではないのだろう、少なくとも、求人検索をよくかけているわたしの街、A市の福祉業界は、人の入れ替わりが相当多いのだろうとわたしは勝手に思っている。(とは言え、福祉業界と他業界を比較したわけではないから、多いのか少ないのか、厳密に考えると言えないのかもしれない。そういう意味では、「多い」という評価はいくぶん主観的なものなのかもしれない)

負の連鎖

よく冗談で、職員の入れ替わりの回転率は牛丼屋並だなんて笑ったりするが、現場で働いている人間からしたら、笑えたものではない。いや、笑っているのは、笑えない状況だからだ。笑えない状況だから、自虐的に笑うしかない。

 

なんとなれば退職者が出たら、その人から引き継ぎを受けるから残された人間は単純にまず業務の負担が増える。さらに新しい人が無事見つかり来てくれるのか、という不安もある(なにせこの業界、求人も多いのだから、うちのような弱小法人に人が応募してくれるのか?)。よし人が応募して採用されたとして、その人材はどんな人物なのか? 新人だが自分よりも数十年年が上だなんてこともざらにある。そしてその新人に、職場のトイレやら更衣室の場所やらティッシュペーパーのしまってある場所やら、パソコンのログインの仕方やらなにやらの一切合切を教えなければならないのだ。

 

…という事態が、一度や二度ではない。「○○さん、ようやく覚えてきた、慣れてきたな」と思う頃に、彼/彼女は旅立っていく。そうして人が定着せずに辞めていくという事は、スタッフ同士の人間関係が安定しないことを意味する。それはまた組織文化が育まれないことを意味する。そして何より利用者に対するサービスの質が向上しないことを意味する。

 

そういう現場では、常に引継ぎが行われ新人教育が行われているということで、具体的にはトイレットペーパーの在庫の在りかを何度もレクチャーするというようなプロセスを1度、2度となく幾度もリピートすることだから、大変な労力のロスである(人が定着するならそんなこと一度教えれば済む話なのに)。牛丼屋並の回転率で、何とか事業所を維持しようとすることは、そういうことだ。人の入れ替わりの激しい職場に残されたものは、しだいに空いた穴をふさぎ続けることにくたびれていく。志があって現場に入り、最初は職場の窮状に闘志と使命感を燃やしていたとしても、しだいしだいに、ペダルをこぐのをやめてしまえば倒れてしまう自転車につかれてしまう。しかもどこに行きたいのかわからず、ただ倒れてしまわない(事業所がつぶれないようにする)ことそれ自体が目的化しているのではないかという気すらしてくる(これは私の話か)。

 

シーシュポスの神話ではシーシュポスには逃げ場はなかった。でも、わたしたちには、この連鎖から抜け出す方法がある。それは、自分自身がこの職場を辞めていくことだ。そうして、自分自身もまた、この悪しき連鎖の一端を結果として担うこととなる。

なぜ辞めるのか、という問いに対する仮説

「なぜ、人が辞めるのだろう。人材が定着しないのだろう」。

この問いに対する仮説の一つは「人が辞めるのは、人が辞めるから」である。

 

人材が定着しないのは、

① 人が辞めると、残された人が大変になるから。残された人は擦り切れていく。そして今度はその人が辞めていく。するとその時残される人が大変になり…。
 
② 辞める人がいるのが当たり前の現状を目の当たりにし、辞めていく人の前例を多く見るほど、辞めることへの心理的な敷居も小さくなっていくだろうから。


③ さらに、福祉業界全般が求人に溢れているのならば、辞めても次のあてがあるから。そういった意味で「辞めやすさ」の高い業界だから。(そうして辞めることで、求人票が一つまた増える。そうしてだれかの「辞めやすさ」を増大させる)

 

無論、これはわたしの現場での狭い経験をもとに考えたものに過ぎないのだから、どこまで普遍性がある仮説なのかはわからない。それに、人が辞めていく理由は他にも思い当たる。

書いていると、過去の色々な先輩や後輩や、職場でのいざこざなど思い出し、どよんとしてくるのだけれど…気が向いたら改めて書いてみようと思います。

つづく