ちらかし読みむし

心理療法、社会学、福祉などの領域の読書録、本の紹介など、その他書きたいことを書いています。

実習生に教わったこと

しばらくのあいだ、職場にPSWの実習生が来ていた。

 

毎年感じることだが、職場に外部の人が入って実践を見て行かれるということは、とても新鮮な風が吹き込む感じで、身が引きしまる。

 

今年の実習生は、業務や実践の意図などいろいろと熱心に質問され、静かに耳を傾けてくださった。それによって普段当たり前に行っていることについて、改めて語るという大変貴重な機会を得ることができたわけだ。わたしは長話にならないよう自制しつつ、少々得々とした気分でいろいろ話をさせてもらった。

さて、謙虚な姿勢で職員の話を聞いておられる姿から、想い出したのは、ハーレン・アンダーソンの言葉。

 

「無知の姿勢とは、セラピストの取るひとつの構えであり、態度であり、信念である。つまり、セラピストはひとり特権的な知識を享受できないし、また他者を完全に理解することはできない。他者から常に「教えてもらう状態」を必要とし、言葉にされたことされないことも含めもっとよく知りたいと思う。このような態度であり、信念である」『会話・言語・そして可能性』p.175

 

「無知の姿勢」。
実践を重ねるほど、様々な仮説や解釈が、聴き手の心の中によぎる。「わたしはあなたのことは、何も知りません。教えてください。学ばせてください」と素直に言う事を妨げる。

実習生は、声が大きかったわけではない。話に説得力があったわけでもない。知識がたくさんあったわけでもない。気の利いた解釈やコメントができたわけでもない。相手の話を引き出す巧みな質問ができたわけでもない。ただ謙虚に、懸命に相手から学ぼうと耳を傾けていただけだ。しかし話し手にとって、それは実に価値のある態度だったのだという事を、今回わたしは身をもって学ばせてもらった気がする。