ちらかし読みむし

心理療法、社会学、福祉などの領域の読書録、本の紹介など、その他書きたいことを書いています。

伊藤周平『社会保障入門』読書メモ

 

 

いま、日本では、社会保障費の抑制・削減(社会保障削減と総称)が進められ、国民生活がますます苦しくなり、将来への不安が増大しているpp.12-13

 

かつて「大砲か、バターか」と称されたように、防衛費の増大を進める政権は、必ず社会保障を削減してきた。安倍政権の場合、それがとくに露骨だ。そして、こうした社会保障削減により、貧困や格差が今以上に拡大することは必至である。p.13

 

また、これは安倍政権に顕著な特徴だが、生活保護バッシングのように、生活保障を求めようとする人を「怠け者」や「不正受給」のごとく攻撃し、助けを求めさせない、声を上げさせない社会的雰囲気が作り出されている(助けを求めたら、バッシングされる!)。社会保障を公的責任による保証の仕組みとしてではなく、家族や地域住民の「助け合い」(共助)の仕組みと歪曲し、できるだけ公に頼らず、自助や家族で何とかすべきだという自己責任論が強調される。p18

 

日本では、消費税が、その導入当初から、社会保障の主要な財源と位置付けられ、社会保障の充実のためと称して、税率の引き上げが行われてきた(三%→五%→八%)。そして、この間、財務省を中心に、御用学者やマスコミを動員して、増え続ける社会保障費を賄う税財源は消費税しかないという宣伝が執拗に繰り返されてきた。そのため、多くの国民が「社会保障財源=消費税」という呪縛にとらわれ、そう思わされてきたし、今でもそうである。p.326

 

社会保障の安定化に消費税収を用いるということは、これまで社会保障に充てられてきた法人税収や所得税収による税収入の大半は、社会保障の安定化と称し、つぎにみるように、法人税減税などによる減収の穴埋めに使われていることになる。(…)実際、消費税の増税にあわせるかのように、法人税の減税が行われてきた。p.329

 

日本では、前述のように、所得税法人税の累進性が緩和され、社会保障の中心をなす社会保障制度の「保険原理」が強化されてきたため、税・社会保障による所得再分配が機能不全に陥っている。実際、税・社会保障による貧困削減効果は、日本はOECD経済協力開発機構)加盟国中で最低水準である。そればかりか、同加盟国において、日本は、政府による再分配(就労等による所得から税・保険料負担を引いて、社会保障給付を足した数値)の前後を比較すると、再分配後で、子どもの貧困率が高くなる唯一の国となっている。税・社会保障による所得再分配が機能していないどころか、逆に貧困を増大させるという驚くべき事態を招いているのである。pp340-341

 

こうした異常ともいうべき不公平税制を是正するため、所得税法人税の累進性を強化し、大企業や富裕層への課税を強化し、それを社会保障の税財源とすべきである。税の所得再分配機能を強化する、憲法の原則に基づいた税制改革が必要となる。p.343

 

税制に加えて、社会保険改革が必要となる。

具体的には、社会保険料について減免措置の拡大が不可欠である。p.344

 

正規雇用を増やして、賃金を上げていけば、社会保障の「支え手」は増えるし、人手不足は解消されるはずだ。そして、社会保障の充実は、経済成長と雇用の創出に寄与する。(…)とくに介護職の待遇改善を実現すれば、高齢化と過疎に悩む地域社会でも、若い人が戻って地域の活性化につながる。p.347