解決志向アプローチ入門 おすすめの本 『解決のための面接技法』
この記事では、解決志向アプローチ*1に、初めて関心を持たれた方向けに、おすすめ本を紹介します。また、なぜお勧めするのか、その本の紹介をします。
アマゾンで「解決志向アプローチ」と検索すると、たくさん本がヒットします。どの本が良いか悩む方もあるかもしれません。
さてさっそくですが、わたしがおすすめするのは、この本です。
『解決のための面接技法[第4版]―ソリューション・フォーカストアプローチの手引き』 ピーター・ディヤング (著), インスー・キム・バーグ (著), 桐田 弘江 (翻訳), & 2 その他
本書はクライアント(来談者)との面接法について書かれたものである。対人援助の専門家に必要な一連の基礎的面接技術が述べられているが、それは他の技法とは多くの点で異なるユニークなものである。(p.v)
では、『解決のための面接技法(第四版)』(今は第四版が最新。古い版は、中古で安く入手できるようです)をお勧めする理由は何か。以下は、おすすめポイントです。
理論だけでなく具体的な実践がわかる
まず、基本的なポイントとしては、この本を読むと、
- SFA(解決志向アプローチ)とほかのモデルとの違いが分かる(問題解決と解決構築の違い)。SFAのモデルの特徴がわかる
- SFAに基づく面接の基本的な進め方が分かる。例えば、初回面接ではどうするか。二回目以降の面接ではどうするか
- 面接の中で用いられる基本的なコミュニケーションの方法(「対話スキル」)が分かる
単に、このモデルについて理論的に説明しているだけでなく、どのような観点で、どのような言葉かけを行うか、学ぶことが出来ます。面接場面での例(逐語記録)も豊富です。また、面接場面を録画した学習用のDVDもついているので、実際に見て・聞いて学ぶこともできます。
現場での活用のヒントが豊富
さらにこの本がリアルな日常の「現場」にいる人にとって、とても親切です。「こういう場面ってある!」に対する、「こうすればよいのか!」というヒントが随所に散在しています。たとえば、
- 誰かに言われて、いやいややってきたクライエントにどう関りをもつか(ソーシャルワークでは「involuntaryなclient=非自発的な来談者」という表現が存在します)
- また、「悪いのは、誰それさんであり、誰それさんが変わらない限り良くなることはない」と言うクライエントには?
- SFAを学び実践していると、職場内の他の職員と全然違う「ものの見方」をするようになるかもしれません。そのため職場内で浮いてきてしまった時、どうするか
など。そのような状況の時、具体的にどうふるまえばよいのでしょうか。これも、イメージができるように例と共に示されています。「ヒントが散在している」と上で述べましたが、わたしの現場(精神保健福祉領域のソーシャルワーク)ではヒントと言うより「直に使える」内容が多いです。
理論・研究面の内容も充実している
また、マニュアル・技法的な内容にとどまらず、背景にある意味付けや実証的な調査研究の知見も紹介されています。
つまり「SFAは本当に役に立つのか?」「SFAは専門職の価値と矛盾しないか?」「SFAの実践では何が起こっているのか?」といった問いに対応する内容も盛り込まれています。
例えば、各疾患・障害や問題のタイプ別の、SFAの有効性に関する統計的データが示されていたりします。また、ソーシャルワークでは、「倫理綱領」や「バイスティックの7原則」など、援助者の基本的なスタンスについて初学の段階で学習したり、あるいは「知識」「価値」「技術」という三つ組みがセットで語られたりもしますが、こうした「価値」とSFAはどのように関連しているのか、についても一章さかれています。
以上、『解決のための面接技法』という本について紹介してきました。
この本をとる上での難点は、「高い!」ということです。
手軽さを重視するのであれば、 以下の二冊も入門的です。
事例が豊富で、実践例が生き生きしているのはこの本。
面接のしかけの意味 『短期療法解決の鍵』より
この記事の概要
解決志向アプローチ(SFA)の「休憩」「フィードバックメッセージのコンプリメント」の目的について、de Shazerが『短期療法 解決への鍵』で説明している箇所がありました。この記事では、その内容について簡単に紹介していきます。
de Shazer『短期療法 解決への鍵』
先取りすると、こうしたSFAの「面接のしかけ」の目的は、クライエントの「注目の構え」「『はい』の構え」を準備し、「新たな一歩」の下地を整えることである、とまとめることができそうです。このような背景や意味を知っていなくとも面接は実施できると思いますが、読むと面接の意味がより理解できるようになるかもしれません。(なお、記事の内容は、SFAの基礎についてある程度既知であることを前提としています)
SFAの面接構造
まずは、SFAの面接構造のおさらいです。SFAの面接はおおまかに3つのセクションにわけることができます。
- クライエントと話し合う場面(ウェルフォームド・ゴールをつくる、例外を探す、など)
- 休憩
- フィードバック・メッセージ
さらに、3.フィードバック・メッセージの中身は、
3-1)コンプリメント
3-2)ブリッジ
3-3)提案
が基本の骨格です。
なぜ、このような構造になっているのでしょうか。この面接構造の効果や目的について、Steve de Shazerが説明している箇所がありました。
それは、
①クライエントが、セラピストのことばに注目し、
②あたらしいものを受けいれる構えをつくる
ためです。以下で詳しく見ていきましょう。
休憩の目的 ―注目の構え―
まず「休憩」について。SFAでは、クライエントとセラピストがある程度話をした後、いったん「休憩」(break)が置かれます。「シンキング・タイム」と呼ぶ人もあるようです。セラピストは、いったん退室して間を置いたのち、再びクライエントと対面し、その後フィードバックメッセージを伝えます。
休憩の催眠的目的は「反応注意」(response attentiveness)――クライエントがたしかにセラピストの指示に注目する構え――をつくりやすくすることである。(Steve de Shazer(小野直広・訳)『短期療法 解決の鍵』誠信書房、p.111)
いくらセラピストが一生懸命クライエントに語り掛けていたとしても、クライエントが興味を持って耳を傾けていなければ、言葉は右から左へと流れてしまいます。ところが休憩をはさむことで、クライエントは戻ってきたセラピストに注目するので、言葉が届く可能性が高まるようです。クライエントは「何をいわれるんだろう…!」と考えながらセラピストを待つからでしょうか。休憩は、セラピストが面接を振り返り、言葉をまとめる時間でもありますが、クライエントがセラピストの帰りを待ち、語られる言葉への注意を準備する時間でもあるということでしょう。そういうことであるならば、休憩時間中、クライエントもセラピストもともに、「3.フィードバック・メッセージ」への準備を整えているようです。
※なお、引用文にある「催眠的」という言葉については、後日別記事を書きました。
フィードバック・メッセージの構成 ―『はい』の構え―
以上は、休憩がフィードバック・メッセージの前に置かれる目的についてでした。休憩の後、セラピストは再びクライエントと対面し「フィードバックメッセージ」が伝えられます。伝えられる「フィードバック・メッセージ」は「コンプリメント→ブリッジ→提案」という骨組みで構成されることが推奨されています(メッセージの作り方は、『解決のための面接技法』などに詳しい)。
さて、「コンプリメント」が初めに置かれる理由は「『はい』の構え」をつくることだと言われます。
コンプリメントは、
治療的課題や指示のような、新しいものをうけいれる心の枠組みの中に、クライエントをみちびくのに役立つ。(Steve de Shazer(小野直広・訳)『短期療法 解決の鍵』誠信書房、p.111)
フィードバックを、クライエントが面接中に話した「解決のかけら」「リソース」から始める(コンプリメントから始める)と、たとえばこういう形になるかもしれません。
「お待たせしました。あなたがお話されたことについて、考える時間をいただきました。まず、これまであなたは、○○と△△をためして見たということでしたね。それは、□□を思ってとのことでした。あなたはとても●●を大切にしていらっしゃるのですね。…」
自分が話した、「努力した事」「大切にしていること」「希望していること」などが、改めて他者の口からまとめて語られるのを聴くとき、「うん、うん」とか「そう、そう」とうなづきながら聴くのではないでしょうか――表に声にだしてであれ、心の中だけであれ。
このように、「はい、そうです。はい、そうです」と相手の話を聴いていると、次に来る話も受け入れやすくなる、という心の構えができるといます。これを「『はい』の構え」(yes set)と言います。
コンプリメントの目的は、この「『はい』の構え」をつくることだとされます。これは、コンプリメントののちに来る「提案」に対して、受けいれやすくする準備をする、という意味があるということでしょう。"yes set"について、ネットで試しに検索してみると、相手の言動を操作するテクニックのように紹介されていたりもしますが、もちろんセラピストは、クライエントを自分の都合のいいように操作しようと、このような言葉かけを行うわけではありません。そうではなく、クライエント自身が望む方向へ、クライエントが自ら歩んでいけるように援助するのが、セラピストの役割です。
SFAの面接でクライエント役になったことはあるでしょうか。わたしは、コンプリメントされる体験をして、「自分もけっこう頑張っていたんだな」とか「よし、ちょっとやってみようかな」という思いがわいて来た経験があります。つまり、自分の足で一歩踏み出す元気が出てきた、ということです。クライエントが「変化の主体」です。コンプリメントは、人が自ら新たに歩んでいこうとする下地をつくるだと言えるかもしれません。
まとめ
まとめると、SFAの面接での、「休憩」をはさむ面接構造や「フィードバック・メッセージの構成」といった「面接のしかけ」の目的は、以下のための条件整備することと言えそうです。
①クライエントが、セラピストのことばに注目し、
②あたらしいものを受けいれる構えをつくる
さらにまとめると、
SFAの「面接のしかけ」は「クライエントの”注目の構え”、”『はい』の構え"を準備し、クライエントが自ら新たな一歩を踏み出す下地を作る」。